大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(ネ)2816号 判決

控訴人 国民金融公庫

右代表者総裁 吉本宏

右訴訟代理人弁護士 熊倉洋一

被控訴人 クラリオン株式会社

右代表者代表取締役 小山田豊

右訴訟代理人弁護士 山崎源三

新居和夫

玉重良知

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

当裁判所は被控訴人の本訴請求を認容し、控訴人の本件控訴を棄却すべきものと判断する。その理由は、次項記載の理由を追加する他は、原判決の理由と同一であるからこれを引用する。ただし、次のとおり訂正する。

1  原判決一四枚目表二行目の「弁済するか」の次に、「どうか」を加える。

2  同一四枚目裏四行目と六行目に、「債権譲渡」とあるのを、いずれも「譲渡」と訂正する。

3  同一五枚目表一行目の「実質的に」を削除する。

二 控訴人は、本件債権譲渡を受けた当時、訴外株式会社タカベ(以下「訴外会社」という。)は債務超過ではなかつたし、また、控訴人の担当者は、債務超過ではないから本件債権譲渡を行つても他の債権者を害することにはならないとの、訴外会社の代表者等の当時の説明を信じていたから、本件債権譲渡は詐害行為とはならない、と主張し、訴外会社の代表者である証人軽部良雄は、当審において控訴人の右主張に副う証言をしている。しかし、右証言は、本件債権譲渡が行われた直後である昭和六一年六月末日現在の訴外会社の財務内容を示す甲第九号証(成立に争いがない)が、三一八〇万円余の債務超過であることを示しており、訴外会社の債権者集会において配布された前掲甲第四号証中の訴外会社の同年八月一〇日現在の貸借対照表も、約三〇〇〇万円の債務超過であることを表示していることと矛盾する。また、証人軽部は、債務超過でなかつたことの根拠として、乙第一四号証の一ないし九に基づき、訴外会社は当時、東急建設株式会社等に対して、多額の債権を有していたことを挙げているのであるが、乙第一四号証の一ないし九記載の金額は、前掲甲第九号証の内訳明細書である甲第一〇号証の一(成立に争いがない)、及び、甲第四号証中の売掛債権等一覧表に対比すると、多額に過ぎるから、一見して取り立て可能な債権ではないものが含まれているのではないかとの疑いを抱かせるのみならず、同証人も自認する如く、乙第一四号証の一ないし九記載の中には、未だ完工のみならず着工もしていないために、受注高又は受注見込高を示すに過ぎないもの、あるいは、未だ出来高査定を経ていないために、発注者と金額について合意に達していない請負代金債権も含まれているものと認められ、債務超過ではなかつたことの証拠とはなり得ない。また、本件債権譲渡の申し出は、訴外会社がまもなく手形不渡りを出すとの前提でなされているのであるから、たとえ訴外会社代表者やその代理人弁護士が、債務超過ではないなどと説明したとしても、債権管理に精通している者が少なくない控訴人公庫の担当者が、その説明をそのまま鵜呑みにしたとは到底考えられない。従つて、控訴人が本件債権譲渡の当時債権者を害することを知らなかつたことを認めることはできない。

三 以上の理由により原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条によりこれを棄却する。

(裁判長裁判官 武藤春光 裁判官 高木新二郎 秋山賢三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例